Strength Developerをつくりたかった背景
私たちの実施したある企業での調査では強みを意識して働いている人はたったの9.5%しか意識していませんでした。
「これは、もったいない・・。もっと、もっと、人は力を発揮することができるんだ。そして、力を発揮できると人は幸せと感じるのに・・・。」
人がイキイキ働くことを8年間も研究してきた一般社団法人 ポジティブイノベーションセンターやサクセスポイント株式会社のメンバーは思いました。「もっともっと自分を活かそうよ。そうすれば、今よりずっとイキイキと働くことができるのに・・。」そんな想いがありました。日本で働く人みんなが、強みを意識して生きればより幸せに感じることができることを知っていたからです。
ポジティブ心理学ではわかっているのです。強みを使っている人は高いモチベーションを維持し、早く、楽に、高い品質の仕事ができていることが・・・。そして、より充実し、イキイキと働くことができたり、人生の目的に向けて進めることが・・・。
もっと強みを意識して、働くようになれれば、みんながもっと楽しく、幸せに働ける。そんな想いがこの強み診断開発ツールをつくりだすエネルギーを与えてくれました。
なぜ、私たちが作ることができたのか?
実は、私たちは日本におけるポジティブ心理学のパイオニアです。ポジティブ心理学をわかりやすい形に直して、ワークショップや研修を行ってきました。ポジティブ心理学の情報が日本にはほとんどない時代でした。一般社団法人 ポジティブイノベーションセンターとサクセスポイント会社の2つの組織の代表である渡辺誠が海外を飛び回って、優れた理論を学び、活用方法を学び、幸せに活動を始めたのは2008年です。そのころから、イキイキ働くための情報収集をしてきました。そこで学習した理論を研修やワークショップの形にして企業や団体に提供してきたのです。
その活動の一環で、2010年から2018年7月まで、強み診断ルール『Reaise2』を提供してきました。イギリスのポジティブ心理学者Alex Linleyがつくったツールです。それを使いながら、皆さんにセミナーをしたり、企業に適用したりして、実践で強みの研究を実施してきました。
しかし、そのReaise2は、EU個人情報保護規制(GDPR)の基準に満たないために、日本語での利用できなくなったのです。これで、今までReaise2を使って研修をしてきた研修企業や、コーチの皆さん、研修講師の皆さんが、使うツールが無くなってしまったのです。これは迷惑をかけることになりました。
いっぽう、一般社団法人 ポジティブイノベーションセンターとサクセスポイント株式会社では、ポジティブ心理学の理論の研究とそれを活用したワークショップを、また、Reaise2を使っての実践での強みワークショップの体験、AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)での約300回・15,000人以上の対話。そんな活動を積み重ねてきました。
強みや成功を導いた要因を毎日のように聞いてきました。つまり、強みに関する十分な情報と経験を持ち合わせていたのです。
その情報と経験を合わせて、2018年1月ごろから考えはじめ、5月に一般社団法人 ポジティブイノベーションセンターの仲間と一緒に日本独自の強み診断開発ツールを自分たちの手で作り上げることを決断しました。
海外の強みツールの主張
その多くの海外でつくられた強みツールは主に4つあります。ストレングス ファインダー、VIA、Reaise2、StandOutです。それらの強みに対する考え方は、似ています。次のようなものです。
- もっと強みを使いなさい。強みを使うと早く楽にいい仕事ができます。
- 弱みはなるべく使わないで済むようにしてください。他の強みで代替しましょう。あるいは、それを強みとしている他の人と仕事を交換したらどうでしょう。
- 弱みを使って長時間かけて実施するより、強みを活かした仕事をした方が、仕事の効率はあげることができます。
そんなメッセージを伝えている海外の強みツールが多かったのです。
日本企業でのニーズ
海外の強みツールの考え方は、日本に住んでいる私たちの感覚と大きく違っていました。
たとえば、こんな具合です。
- 日本の大企業の人たちは、異動があるので、強みであろうと、弱みであろうと、それが得意であろうとなかろうと、任せられた仕事を成し遂げる必要に迫られていました。
- 中小企業の人たちも、もともと人数が少ないので、広範囲に何でもやり抜く必要に迫られています。そして、自分の持っている力以上の広い範囲の仕事を与えられることが、常です。
- 官公庁の人達も、人事異動があり新しい仕事に慣れるためには、その都度、仕事に全力で打ち込み、できるように努力する必要があるのです。
こう見ていくと、日本人のほとんどの働く人は、任された仕事を何とかやり遂げることが優先です。その中で、強みを活かしながらも、弱みを何とかしなければならないのです。これが日本の働く人の強みを現実と合わせて見た時の現実なのです。
ある大企業に、イギリスで開発されたReaise2を勧めに行ったときに言われました。「強みだけを強調してもらっても困る。新卒や若い人たちが、弱みをそのままにしては、仕事ができない。弱みを伸ばすことをしなくなると、今後、この会社で生き残れなくなる。強みを伸ばしながら、弱みを克服していかなければならないのがわが社の事情なのです。」「そんなわけで、強みを強調するツールはわが社と基本的なコンセプトが合わないので、使うことができないです。」
これは一例です。しかし、こう考えている経営者や、人材開発担当役員が多かったのです。
…と、言いながら、前述のように強みを意識して働けば、もっと、イキイキと充実して働けるのです。しかし、今の働く環境の中では、強みを意識して仕事をしている人がたったの9.5%しかいません。とても少ないのです。だからエンゲージメント指数も139か国中、132位なのです。こんなに豊の国なのに、世界幸福度ランキングは156か国中54位です。
幸せに働く、イキイキと働くという言葉を掲げている企業は多いのですが、人の強みを活かし、それを実践している企業や団体は多くありません。強みにはあまり意識を置いていなのです。
私たちはそんな現実を研修やワークショップやコーチングで見てきました。だから、私たちは日本に合う強み診断ツールが必要だと考えてきたのです。
強み診断開発ツールStrength Developerのコンセプトの誕生
日本の企業や組織で働く人は、強みを活かしながら、弱みもある程度克服できるようにならないと、社会の中で生き残っていくのは難しいのが見えてきた姿です。仕事を与えるときに、強みの仕事ばかり与えられないのが、組織の実情だからです。
私たちは、強みの研究を長年続け、組織開発や、ワークショップや、研修で、対話を通じてたくさんの意見を聞いてきました。AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)のワークショップを300回以上実施し、人が仕事をしている環境でどんな強みを使い、どんな成果をあげているかもたくさん聞いてきました。参加者の皆さんと、一緒に話し合いながら、「強みと仕事」、「強みと生活」を考え続けてきた私たちです。
そんな私たちだから、日本で真剣に働き、生きている人に役立つ強み開発アセスメントをつくることにしたのです。
以下のようなことを我々の強み診断開発ツールStrength Developerのユニークなコンセプトとして掲げました。
- 3つの視点6つのカテゴリーで強みをリストアップする。そのバランスを見えるようにする。
- 強みを頻度と活力度の両面から見る
- イキイキと使える強みを発見し、より活用する材料を提供する
- イキイキとするけど使えていない強みを発見する材料を提供する。比較的容易に開発できる強みを提供する。
- 努力が必要な強みを明確にする。今の仕事やこれからの将来に必要な力は人に迷惑かけない程度に伸ばす努力をするよう勧める。
- 誰もが自分の中での強みと弱みを持っている。それを、その人の中での順列で、相対的に表示する。したがって、Aさんの強みとBさんの強みを比較した時には、力は同じでなくてもよい。
- わかりやすく表示するために2軸のマトリックス表示とする
開発にあたり考慮した主な理論的な背景
これらの仕組みを作るために考慮した主な理論的な背景は次の通りです。
- グロースマインドセット
ポジティブ心理学の理論の一つに「マインドセット」という考え方があります。成長マインド(Growth Mind)の人は、チャレンジを続けながら成長し続けるという研究成果です。つまり、チャレンジをして使ったことがない能力を使って身に好ければ早く成長できる。
*1)キャロル・ドゥエック著 『マインドセット「やればできる!の研究」』の内容を渡辺誠が要約記述
- 拡張‐形成理論
ポジティビティは心と精神を開放し、受容性と創造性を高めてくれる。また、ポジティビティは私たちを成長させてくれる。新たなスキルや人間関係、知識、生き方などを発見したり、作り上げたりする。ポジティブ感情が豊かな人はネガティブ感情に支配されている人に比べて、好奇心をもってチャレンジする。したがって、早く成長することができる。
*2 「拡張‐形成理論」 バーバラフレデリクソン著 『3:1の法則』日本実業出版社
- ダイナミックスキル理論
私たちが発揮するスキルは、自分が注いできた時間と努力の結晶であると同時に、他者・文化・環境の恩恵によって生み出された結晶なのです。*3 カートフィッシャーのダイナミックスキル理論 加藤洋平著 『成人発達理論による能力の成長』ダイヤモンド社
- 内発的動機づけ
内発的な動機づけがもたらす「報酬」は、楽しさと達成の感覚であり、それは人が自由に活動するときに自然に生じる。したがって、その仕事をこなす能力があるという感覚は、内発的な動機づけの重要な側面である。・・・仕事に打ち込めば打ち込むほど、いっそうそうした感覚を得ることができることに気づき、いっそうおおきな内発的な満足を経験する。*4エドワード・デシほか著『人を伸ばす力』新曜社
Strength Developer強み診断開発ツールの制作を開始
これらの理論に加えて、ワークショップの豊富な経験から、ビジネスで成功するために必要な3つの視点と6つのジャンルが生まれたのです。
成功するにはまずは人間力、そして、実務を成し遂げる力が必要、さらに、人のコミュニケーションや関係性が必要。そんなことが見えてきたので、体系化しました。さらに、人間力を2つにわけました。自分を成長させる力、自分の軸となるような価値観や哲学です。実務実行力も今使う力と未来に必要な力に分けました。関係性も、他者に影響を与えて動かす力と人間関係そのものの力に分類したのです。
その上で、過去たくさん聞いてきた言葉を150程度のカードに落とし込み、そのカードを簡易な方法で、因子分析的にまとめ上げ、39の強みにまとめ上げました。
思ってもいない苦労の連続
あとは、コンピューターで計算させ、システム化すればよい。すぐ使えるようになると思っていました。
しかし、そう簡単ではなかったんです。第1回の内部テストを行うと出たデータが適切に強みを表していませんでした。みんなの点数があまりにも高かったのです。
開発者の我々はため息をし、落ち込みました。そして、悩みました。十分に落ち込んだら、立ち上がりました。
周りの方にインタビューも実施し、多くの強み以下のテストも参照し、質問を抜本的に変更することにしたのです。
第2回目の内部テストをしました。前回指摘した点は良くなりましたが、まだ不十分。うまくデータがでない。また、凹んで、悩みました。そして、立ち上がりました。強みの配置を変えたり、表現を変えたり、説明文を変えたり・・。ざまざまな工夫をしてたのです。
こんなことを繰り返してきました。文章をかえ、スケールを変え、表示ルールを変え・・・。たくさんの時間と労力を費やしながら、知恵を出して、解決してきました。
そんな試行錯誤です。なんでも新しいものを開発するのは、同じですね。気持ちのアップとダウンを繰り返しながら作り上げてきました。
コンピューターのIT投資も膨らむ一方。お金の面でも、悩むばかりです。
でも、「やり抜く」と決めたことは「やり抜く」。
みんなで力を合わせてやり抜いてきました。
その結果、日本事情を知っている日本人がつくった強み開発診断ツールが出来上がりました。Strength Developerと名付けたのです。
今、Strength Developerは信頼性・妥当性テストの検証中です。たくさんの人に実施してもらった結果、合格すると、正式な販売を開始できます。